「復活8」

「ヨダか」が開店してはや一週間がたったが、この一ヶ月あまりは殆ど店関係に費やしてしまったようだ。店を開くというのは、思ったよりも大変なことだった。プレオープンの予定日を伝えたことで、多くの方が現地に偵察に訪れてくれたようだが、そのほぼ全てが「本当にオープンできるのか?」という不安を抱いたようだから、本当によくオープンにこぎつけたものだ。

そんな最中、博報堂時代の同期が転職した先の職場を見せてくれるというので、外資系保険会社のあるとある街のとあるビルに向かった。するとその職場は、なんと博報堂本社跡地に建てられたビルの中だった。七階にある同期の個室の窓からは、外を見下ろすことができたが、彼は博報堂時代も同じ七階の職場で働いていたのだという。そして、願いが受け入れられず泣きながら博報堂を去った日を、今でも昨日のことのように覚えているという。それは巡り合わせのような気もするし、なんだか笑えてもくる。

「お前もここの六階にいて、この景色を眺めていたんだぞ」

え? 全く思い出せない。本社ビルにいたことは覚えているが、何階だったかまでは覚えていない。それにしても、こんな景色だったか? 再開発で、街の変わりようが早過ぎるせいではないか。それとも不本意な修業時代の記憶を、無意識に消そうとしていたのか。最初に配属された部署には満足がいかず、クリエイティブ局に移ってからが自分の本当の会社員人生だと思っているのは確かだ。自分が覚えていないことを覚えてくれている友人には、本当に頭が下がる。

しかし会社に四年しか在籍しなかった彼と、十三年在籍した自分では、記憶に残る部分が変わってくるのも事実だ。自分だって、フランスの特急列車の中で、ダンスを踊りながら必死でスタッフに意図を伝えたことや、プレゼン中に相手のキーマンが怒りだして必死でそれを宥めたことは、昨日のことのように覚えている。

自分の記憶は、成し遂げたプロジェクトの過酷さに比例しているようだ。反対に、初心だった頃の記憶は、どうしても薄くなる。青春ソングは、書き留めておくべきだったと後悔しても遅い。彼の方が、若かった頃の記憶は沢山持っているのかもしれない。

友人と別れ、街を後にしてからも、爽やかな余韻は続いた。彼がいいリフレッシュをもたらしてくれたようだ。さあ、今日からまた店の方を、ひとつ頑張ってみるとしよう。

(内藤まろ)