「復活14」

西神田の交差点を駆け抜けて、カレー屋の席に着いた途端、財布がないことに気がついた。ああ! あの、横断歩道を駆け抜けたときだ! このスウェットは素材が柔らかいので、ポケットから滑り落ちやすいのだ。タクシーでも、何度か忘れそうになったことがあるではないか。

すぐに戻ります。と、カレー屋のママに伝え、数十秒ほどの現場に走って向かう。渡ってから、まだ五分もたっていないのだ。きっと白いヘビ皮が、横断歩道で光っているはずだ。

必死で、交差点の周囲を探す。だが、財布はどこにも見当たらない。

白だから白線の死角になって、クルマにでも飛ばされてしまったのかもしれない。絶望的な気分になって、脇を流れる川面を覗いた。今年からガラにもなく白いヘビ皮の財布などにしたのが、いけなかったのだろうか。。

半ばもう戻らない覚悟をして、近くの交番に向かう。失踪物のリストを警官の前で書き込んでいるうちに、これから対処するべき事柄の多さに眩暈がしてくる。

リカバリーに要する時間とエネルギーとを考えると、実際の経済的損失はどのくらいになるだろう?念のためほかの署にも聞いてもらったものの、やはりどこにも届けは出されていないという。

銀行の口座を止めながら、息子が待っているマンションへと急いで帰る。部屋に戻り、腹が減っては仕方ない、と息子にラーメンをつくる。つれにも報告をしておこうとケータイをとると、
ちょうど着信があり、画面に最近通っている学校の名前が表示された。

内藤さん、財布落としませんでした?
えっ?

一瞬、頭が、パニックになる。
財布を拾った人間が、たまたま学校の受付だった?
でも、学校は初台にある。そんな偶然などがあるのだろうか?

拾った方が、学生証見て、電話かけてきてくれたんですよ。

そうか。普通に考えれば、そうだな。うれしさのあまり、興奮をそのまま受付嬢にもつたえる。
なんと財布を拾ったのは運転手で、同じマンションの方だったのだ。

エレベータを下り、マンションのフロントで謝礼を渡そうとすると、その奥ゆかしきわたしの恩人は、

いいよお、そんなことお!

と、エレベーターへと消えていってしまった。

その一部始終を見ていたフロントのおじさんが、

この国は、落とした財布が戻ってくる国なんです!

そう言って、胸を張っていた。

(内藤まろ)